会員サービスからメディアに進化するEC
現在のECは会員サービス
最近ではソーシャルログインやAmazon Payなどの外部決済サービスの活用で、ECで保存するユーザー情報というのは以前と比べると減ってきてはいますが、それでもいま現在ではECは「会員サービス」であるというのは否めないでしょう。
すなわち、まず「会員登録=サインアップ」をし、利用時には「サインイン」をして使うサービスです。
つまり今ECというのは、「会員サービス」としての側面と「商品販売」としての側面と「決済配送」としての側面があるということになります。
ちなみに商品販売と決済配送は、サービスというか機能としては別物です。
2000年より以前にスタートした各種のネットサービス、例えばYahoo!とかFacebookなどは、往々にして機能を全部入りにしようとしていた傾向があります。
それに対して後発というかミレニアル世代やGeneration Y、Generation Zがメインユーザー層になって以降のネットサービスというのは比較点シンプルであり、UXも狙いがはっきりしているという傾向にあります。
今でいうとInstagramやTikTokなどがその代表的な事例かもしれません。
デジタルシフトが注目される理由
その中でECというのはまだ設計が比較的前時代的なものがほとんどです。
これは一つには「お金を払って商品を購入する」という、割と重要な行為を行う場所であるためということもありますが、それに加えてECプレイヤーというのはもともとリアルな店舗を持っている企業が展開している割合が高いということもあるかもしれません。
ここ1-2年よく「デジタルシフト」というキーワードを聞きますが、ミレニアル世代以降からしてみたら「デジタルシフト??」という感じではないでしょうか。
もともとデジタルが当たり前のようにある環境で育ってきた人からすると、2020年にもなって「デジタルシフト」というのは今更なにを言っているのか、と思う気がします。
にも関わらず「デジタルシフト」というキーワードをこれだけ頻繁に目にするということは、「デジタルが当たり前ではない世代」こそがいま経済においてメインプレイヤー層だということです。
ザッカーバーグのように学生時代に面白いネットサービスを作ろうとする世代は、「デジタルシフトを意識しないと」とは思わないでしょう。
ECは急速に成長している市場とはいえ、コマース全体でいえばまだ15%程度のシェアです。
コマースの85%はリアルな店舗によって実現されており、そこにはまだまだこれからデジタルシフトする必要がある仕組みや組織がたくさんあるのも事実なのです。
コマースのメインテーマ
また、先程も書きましたが「お金を払って商品を購入する」という行為は、あいまいでは許されない点が多いのも事実です。
もちろん決済処理をきちんと行われるようにしないといけないというのもそうですが、それだけではなく売上や在庫数はもれなく正確に処理しないと会計も税務も滞ってしまいます。
商行為が関わるシステムというのはいわゆる業務系と呼ばれる、トランザクションを処理できるシステムである必要があります。
この「トランザクション」をどう処理するのかというのが、ECに限らずコマースにおいては常にメインのテーマというか大きな制約条件となります。
例えば外部決済を使う場合でも、決済先からのコールバックが戻ってこなかった場合どうするのかとか、返品があった場合の返金と在庫への復帰とか、現金引換で購入して支払われなかった場合とか、コミットはもちろんロールバック処理というのは頻繁に起こりますし、かつミスが許されません。
そのためECというのは、他のSNSなどのそこまでクリティカルではないサービスに比べて、全部入りの設計から脱却するのが遅くなっているという事情はあると思います。
同一システム内にユーザーがログインして購入して決済して配送される方が、相対的にトランザクションの実装がしやすくまたトラブルも少ないと判断するのは理解はできます。
ただそれは、相対的に遅いというだけで、いずれECももっとネットサービス色を強くしていくのは確実だと私は思います。
メディア化への転換
大きな転換点の一つは端末決済です。
Apple Payなどのように、今となってはほぼ全員持っているスマートフォン上で利用できる上に、スマートフォンからアクセスしたサイトやアプリ上で支払い処理ができる端末上の決済手段の登場というのは、コマースにおいてかなり大きな意味を持ってきます。
ちなみに決済と電子マネーというのは別物です。
電子マネーはお金そのものであり、決済というのは通信というかトランザクションの仕組みです。
私はAndroidは使っていないのでGoogle Payについては知見がないのですが、Apple Payの場合支払いをできる上に名前や住所情報まで持っているので、もはやECを利用する際にマーチャントに渡すべき情報というのはすべてそこに含まれているということになります。
実際、Apple製品を購入するためのApple Storeアプリでは、製品を選んだらApple Payの支払い実行をするだけです。
これはつまり、ECサイトというのはもはやサインアップやサインインをする必要がなく、魅力的な商品を仕入れてそれをわかりやすく説明し、有効なマーケティングを仕掛けるという、コマースメディアに特化していくということになります。
もちろんサインアップとサインインをすることでよりユーザートラッキングが正確にできて、良いおすすめができたりロイヤルカスタマーへのリターンが提供できたりするという面もあるので、サインアップとサインインが不要になるということではありません。
「ユーザー登録するのかしないのかをユーザーが選べる」という選択肢の増加が重要ということです。
コマースのデジタルシフト
今はECはほぼユーザー登録必須なので、あちこちにユーザーIDとパスワードを登録し、各種の個人情報を登録し、場合によってはクレジットカード情報までそこら中に保存するという必要がありますが、今後は自分が積極的に登録したいと思うサイトにだけ登録すれば良い上に、決済情報は端末にだけあればいいというあり方のほうが、明らかにユーザーにとっては自然です。
ただそれを早くやりすぎたのがソーシャルメディア上のBUYボタンなどでしたが、これはタイミングが早すぎただけでアプローチとしては有効であったのかもしれません。
“ECというのは、「会員サービス」としての側面と「商品販売」としての側面と「決済配送」としての側面がある“、と冒頭書きましたが、今後は会員サービスはユーザーの希望次第、決済は端末で行うようにシフトしていくと、ECというのは「商品販売」に専念するためのサービスということになります。
つまりECのコマースメディア化です。
本来商売というのはそういうものでしょうから、むしろようやくECも本来の商売の形態になるともいえますし、それがいわばコマースのデジタルシフトなのかもしれません。
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【著者情報】
ZETA株式会社
代表取締役社長 山崎 徳之
【連載紹介】
[gihyo.jp]エンジニアと経営のクロスオーバー
[Biz/Zine]テクノロジービジネスの幻想とリアル
[ECZine]人工知能×ECことはじめ
[ECのミカタ]ECの役割
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