メディア化するEC時代への取り組み
店舗とは仕入れ・陳列で差別化するメディア
昨年からリテールメディアというワードをよく聞くようになりました。
ただこれは、リテールメディアという単語がちょっとブームになっているというだけで、リテールコマースというのは基本的にずっとメディアです。
以前も言及しましたが、マーケティングキーワードというのはどうしても賞味期限のようなものがあるので、以前一度バズったワードというのはあまり再利用されない傾向にあります。
たとえばパーソナライズとかCRMとか、これらは今でもCXのかなり重要なパートを占めているわけですが、今さらパーソナライズとかCRMというとちょっと古い印象を受けてしまう人が多いので、また新しい表現で同じ概念が再登場するというのはよくあります。
もともとネットに限った話ではなく、店舗というのは消費者にとってはメディアです。
その顕著な例が本屋さんですが、本屋さんというのは消費者の平均よりは本に詳しい店員さんが良さげな本を仕入れて、それをいい感じに並べることで店頭をメディア化しています。
本屋さんの良し悪しというのは、立地が最重要ですがその次に重要なのは、良い店員さんです。
もちろん本屋さんだけではなく、アパレルもそうですし、スーパーやコンビニ、スポーツ用品店や家電屋さんなど、基本的には店舗は消費者に向けたメディアです。
メディア化で生まれるユーザーコンテンツ
これらは、いわば(このワードもマーケティングキーワードとしてはもう古い感じですが)キュレーションということです。
もちろんリテールだけではなくブランドの店舗もメディアではあります。
例えば高級宝飾ブランドや高級腕時計ブランドの店舗というのは、コマースの場所でもありますがそれ以上に消費者にとってはメディアの要素が強いと言えるでしょう。
ただ、当然ながらブランド店舗よりはリテールのほうがよりキュレーションという要素が重要になりますから、相対的にはリテールのほうがメディア向きではあります。
ECというのは商品の実物を体験できないという大きな欠点がありますが、その代わりにパーソナライズできる、ユーザーをメディアに取り込めるという大きな長所もあります。
店舗というのはAさんでもBさんでもCさんでも見える店頭の景色は同じですが、ECであればそれをAさんならAさんによりフィットした景色にパーソナライズすることも可能です。
そしてそのサイト上でそうしたユーザー達も情報発信者になることができます。
これがいわゆる(これも大概古い感じになってしまいましたが)Web2.0のコマース活用です。
口コミ・Q&Aの広がりとECのSNS化
パーソナライズというのはECにおいてはもう普通に認識されているかと思いますが、ECにおいては消費者も情報発信者になるというのは、まだそこまで根付いてはいません。
その最たる例はもちろんレビューというか口コミですが、口コミ自体まだECサイト内に実装されている例が多くはない状況です。
レビュー以外に消費者が情報発信者になるケースでは、たとえばQ&A(商品に関する質問と回答)もそうですし、またユーザーによるアパレルのコーディネートなども今後は活発化するのではないかと思っています。
今はまだ、セラーにしてもマーケティングソリューションのツールベンダーにしても、ECというのはコマースの場、つまりプロダクトを購入してもらうための取り組みという認識が大きいのではないかと思います。
一方でCXという概念に立ってみれば、やはりECを含めたコマースというのは消費者にとってはメディアであると考えるほうがごくごく自然です。
CXの本質とオンラインコマースの役割
ただここで、メディアということを追求しすぎてしまうと、またちょっとおかしなことになってきます。
一時期(今もですが)、CXのXすなわち「体験」というものを重視しすぎて、これからは商品を売るのではなく体験を売る時代というトレンドがありました。
もちろんそれはそれで正しい面もありますが、消費者にとってはやはりコマースというのはお金を払って自分が気にいる良いプロダクトを購入することです。
購入にいたるまでの体験(ウィンドウショッピングや店員との会話、レビューなど)もそれはそれで楽しいプロセスですし、買うことが全てではなく買ってそのプロダクトでどういう体験をするのかももちろん重要なパートではありますが、それが全てというのは言いすぎです。
CXというのはあくまでも、顧客体験を総合的に捉えるということが重要ですから、ユーザーによっても違うし、プロダクトによっても違うし、同じユーザーで同じプロダクトのジャンルでもシチュエーションによっても違います。
いずれにしてもこれからEC、すなわちオンラインコマースというのは、店舗が担っていたような体験、すなわちメディアとしての役割へとシフトしていくのは確実です。
そのときに、メディアというワードにとらわれて、媒体ビジネスへと突っ走ってしまわないようにする必要があります。
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【著者情報】
ZETA株式会社
代表取締役社長 山崎 徳之
【連載紹介】
[gihyo.jp]エンジニアと経営のクロスオーバー
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[ECZine]人工知能×ECことはじめ
[ECのミカタ]ECの役割
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