ネットで買い物ができる!
ECが世に出た時代を知る二人はECをどう感じたか?
ネットで買い物ができる!
ECが世に出た時代を知る二人は
ECをどう感じたか?
いまでは一般的になったAmazonや楽天、AliExpressなど、まだ世の中に登場したばかりの頃は「本当に商品が届くのか?」「クレジットカード情報を入れて大丈夫なのか?」など不安を持たれていました。
そんなECサイトがまだ「怪しい」「使うのは不安」と思われていた時代を知るコマースプロデューサー川添隆さんとZETA山崎徳之が、当時のECサイト、Eコマースの印象やどんなことに驚き、期待感を持ったのかを語り合いました。
1.ECの黎明期、二人は何に興味を持ち何を買っていたか
山崎:ECが普及し始めたころ、川添さんは何歳くらいだったのですか?
川添さん:高校生から大学生くらいでしたね。
僕の実家は父親が自営業でPCを導入して、世の中から見ると「早い時期からインターネットを使い始めた」家でした。だから僕よりも父の方がインターネットを使って買い物をしたのは早く、それを横目で見ていました。
95年ぐらいにスニーカーブームが起きましたよね。当時中学生だった僕もスニーカーが好きになって、店や雑誌の通販で買っていました。2000年初頭にスニーカーブームが再燃したころ、大学生だった僕は気になっていたスニーカーをヤフオクで買っていました。増えてきたら販売して、いまで言うとスニーカーのせどりをやっていました。
山崎:その体験は川添さんのいまのお仕事にも繫がっていそうですね。
私は、初めてインターネットで購入したのは本だった気がします。私の場合、ITエンジニアの仕事をやっていた関係で「どうやらECというものがあるらしい。使ってみたい」と思って、チャレンジの意味で買い物をしたような記憶があります。
いまでは買い物はECばかりですが、当時は仕事に必要そうなものだけを購入していました。
コマースプロデューサー 川添隆さん
川添さん:もうECが一般的になってきていますが、山崎さんはECが登場する前はどう買い物をしていたか覚えていますか?
山崎:普段の買い物はあちこち歩き回って目当てのモノを見つける感じだった気がします。それ以外で例えば仕事に必要なケーブルなどは秋葉原の特定の電気屋で買っていました。
川添さん:ECが登場する前って足で探して「この周辺、この店に行けば大丈夫」などお気に入りのお店やエリアを頭の中でリスト化していましたよね。それがインターネットの登場で大きく変わりました。
山崎さんがECに触れて印象的だったことは何でしたか?
山崎:レコメンドの機能ですね。Amazonのレコメンドを初めて見た時は印象に残っています。
2001年あたりでしょうか。「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という表示、「買い忘れていませんか?」のメールなど「確かに気になる」と思う商品ばかりで、当時良く出来ているなと感じたことを覚えています。
川添さん:レコメンド機能ってECならではの機能ですよね。
インターネットが登場して「お気に入りのお店」が「お気に入りのECサイト」に変わるだけかと思っていましたが、「お気に入り」はユーザーが能動的に決めて足を運ぶだけではなく「このお店はどうですか?」とレコメンドをもらって受動的に見つけることもできると期待感を持ちました。
山崎:あと例えば、はてなブックマークで自分がよく見るWebサイトから「好みが近そう」と提案してもらえる機能などは面白いと思いました。
インターネット登場前は足で稼ぐのが主だったのですが、実は行った先で「この商品を買った人は」のようなレコメンドを店員さんや仲間からもらっていたのですよね。そしてインターネットなら、レコメンドをもらってすぐに検索(訪問)できてしまう。その変化は衝撃でした。
2.ECにセレンディピティは必要なのか?
山崎:最近、「セレンディピティ」、偶然性に注目が集まっていますが、ECに偶然性を取り込むにはどうすれば良いのか。いわゆるレコメンド機能をセレンディピティと仰るかたもいるのですが、私はそうではないと考えています。
川添さん:それはどうしてですか?
山崎:例えば、本屋に本を買いに行く、棚を担当している店員さんが自身の目利きでもって本を並べていく。そこから私たちが「これも面白そう」と手に取る、これがセレンディピティだと思っています。
川添さん:なるほど、イメージが摑めたかもしれません。
私は例えば、中川政七商店の店舗はセレンディピティを体現していると感じました。実店舗で自分が興味を持ったものを手に取りますよね。ふと横を見ると、一見すると関係がなさそうなのに「あれ?これもいいな」と思ってしまう。
工芸✕日用雑貨というお店全体のテーマの中で、そういった要所が目に留まる棚作りをされているように感じました。本屋を歩いているときと似た感覚かもしれません。
山崎:たしかに、近いと思います。
私はマンガが好きなのですが、『蒼天航路』を買った後に「『キングダム』もきっと好きですよ」と言われても、全然偶然に思わないですよね。どちらも中国の歴史を基にしたお話で系統がかなり似通っているからセレンディピティではないですよね。
それを考えると、ECやデジタルマーケティング領域で「セレンディピティを生み出す」のはそう簡単ではないなと思います。棚作りがユニークな書店や中川政七商店、あるいは東急ハンズやロフトなどの目利きをシステムで再現するのはハードルが高いと思います。一方で、旧来からのECユーザーにとってはセレンディピティがそこまで需要があるかというと、ちょっとわからないですが。
ZETA株式会社 代表取締役社長 山崎徳之
川添さん:たしかに、デジタル上でセレンディピティを表現するのは、中長期的なテーマになるはずです。お客様にとって「いいな」と思える出会いにできるかはなかなか難しいかもしれないですね。例えば、Instagramのストーリーズのようにショート動画を次々と流して興味があるものを選んでもらう動画接客ツールがあります。探していなかった商品やコンテンツに出会うようなツールは徐々に増えてきています。
ただ、僕も含めて、ECがなかった時代を知っているなど、世代によっては「ECとはこういうもの」という固定観念が頭の中にあって、特にセレンディピティは求めていないかもしれません。
山崎:そうですね。
インターネットがない時代でも、世代によって買い物への向き合いかたは違っていたと思います。本を買うのと不動産を買う、同じ「買う」でも買い方は変わってくるので「インターネット、ECサイトには○○が必要だ」と十把一絡げにするのはいささか乱暴なのかもしれません。
ただこれからはいわゆるZ世代がメインの消費者層となってくるのは間違いないので、そうした相対的に若いユーザーの気持ちが重要になるのは確実ですね。ECはツールから体験に進化しつつあるということでしょうか。
3.ECは「カタログ・決済・配送」という買い物に必要な機能の集まり
川添さん:山崎さんはECの定義についてどのように考えますか?
山崎:この2、3年、私もECの定義、「ECとはこういうものだ」について考えてきました。
多くの人が、ECも実店舗のような“場”というか、メディアだと捉えていると思います。買い物をする“場”、プレイスとしてのECという認識があるから、店舗と並列で語られやすいと思います。
でも、いま私はECは買い物をする機能だと考えています。
川添さん:そうですよね。僕も、事業として捉えると商売だと思っていますが、企業やユーザーとしての役割においては場というよりは機能として捉えています。
カタログと決済と配送、あとデータ管理ができるという機能が複合的に使えるのがECサイトですよね。
実店舗では棚がカタログになり、レジで決済、商品を袋に入れて渡して配送になるわけですが、あくまでも一体型のサービスではないでしょうか。ECはこれをインターネットに置き換えたとも言えますが、ユーザーはカタログ、決済、配送のどれかを1つを目的として使うこともできると認識しています。
山崎:私も川添さんと同じ意見です。
川添さんがカタログと仰る部分については、私は「商品検索」だと思っています。
川添さん:なるほど、実店舗で棚を見て回るのは「商品検索」と同じですね。
山崎:「ECサイトはこうするべき!」という文脈で語られることが多いですが、実店舗とどこが同じで、どう代替されているのかが重要だと思っています。決済や配送は機能的な部分ですが、カタログ、商品検索の部分は自由にできると思います。
川添さん:わかります。
私も「ECサイトはこうあるべき!」という文脈を求められるのですが、そうじゃないですよね。
山崎:いま私が「面白いな」と思っているものの一つは決済です。
「決済は機能」と言いましたが、Apple PayやPayPayなどにより決済はお客様の手元で行えるようになりました。しかも、こうした端末決済に住所が紐付けられていれば、ECサイト側は「会員」機能もいらなくなるのではと思っています。
川添さん:企業側でIDとパスワードの管理がいらなくなりますね。そしてお客様は「買いたい」と思ったときに商品をカートに入れて購入するだけ。今後は、より「ログイン」を意識する必要がなくなりそうです。
山崎:前に川添さんはアパレル業界にいたときにECサイトを作ったと話していましたが、コンセプトは何でしたっけ?
川添さん:「買いたいと思った瞬間に何でも(カートに)放り込めて買える」です。
山崎:そうでした。
実は商品って店頭で見ようが雑誌で見ようが、ECサイトで見ようが場所はどこでも良いですよね。ECサイトはそんなお客様が気になった商品を素速く「カートに入れる」ことができて、あとは決済と配送に結びつけられればOKではないでしょうか。
川添さん:Apple PayのようなIDに紐づいた端末決済を使うことで、ECサイト側は商品検索と配送だけを考えればOKになりますね。まだ僕がアパレルでECサイトを作っていた頃はNTTドコモやKDDI、ソフトバンクのキャリア決済はあったもののIDまでは紐づいていませんでした。
いまではInstagramなどソーシャルメディアがコマース機能を持つまでになって、今後は“ECサイト”という単独の場がなくてもSNSと端末決済の組み合わせで簡単に買い物ができるようになっていくでしょう。そう考えると、端末決済によってECサイトから会員機能だけではなく、カートの機能も省けるかもしれません。
山崎:SNSがカタログ、商品検索を兼ねていてクリックしたらカートに入り、決済までできると企業側は端末決済に登録された住所宛てに商品を配送すれば良いだけになるので便利ですよね。
川添さん:ECの動向、未来像をなんとなく感じとってはいましたが、こうお話ししていると具体的な変化が見えてきて面白いですね。
山崎:本当にそうですね。
端末決済が一般的になってきて、ECの定義はけっこう変わったように感じていました。
他には例えば、映画館のチケット販売の仕組みです。それまでチケットの発行情報はメールで届いて、映画館でメールに記載してある番号を端末に入力すれば良いので、住所入力の必要性について疑問に思っていました。
でも、その映画館が端末決済を取り入れたら、アプリを開いて観たい映画をクリックして時間帯に座席を選ぶだけになったので非常に楽になったと思います。
川添さん:山崎さんが前に「これまで決済という概念はネットの向こう側にあったのが、Apple Payによって顧客の側に来た」と仰っていましたよね。実に的を射た表現だと思いました。
山崎:端末決済が登場しただけでも大きく変化しますので、これではますます「ECはこうあるべき!」と言えないですよね。
4.EC事業者に求められるお客様に伝わりやすい環境づくりとは?
山崎:川添さんはアドバイザーとしてECの相談を受けたとき、どんなアドバイスをされているのですか?
川添さん:最近は……と言うか、私が伝えているのはずっと変わってないかもしれません。サイトをどうこう言う前に、ターゲットが明確でブランドらしさのある商品を手配することが最も大切。その上で、例えば商品一覧の並び順を整えるとか、トップページでちゃんと「当店のおすすめ」がわかるようにするとか、そういったお客様に伝わりやすい環境をつくる基本こそ時代が変わっても大事だと思っています。
カタログや決済などの機能を目的として使われたとしても、やはりEC事業者としては商店なので「うちの店に来たならこれはどうですか」と伝えないことには何も始まりません。GUやドン・キホーテの実店舗はお客様も「いろんな商品が揃っている」と思って、好きに歩き回って「カートに入れていく」セルフサービスができると思いますが、ECサイトだと迷ってしまいますよね。
ECサイトはぱっと見で全てが見える“一覧性”が弱いため、それぞれの階層で伝える工夫、伝わりやすい工夫が必要だと考えています。ある意味、どんな業種であっても、ECサイトに関しては専門性を伝える専門店っぽくなってしまうのかもしれません。
山崎:そうですね。
例えば釣具屋やサイクルショップなどがそのようなジャンルですよね。
川添さん:そうは言っても、この十数年でテクノロジーのおかげでかなりやりやすくなった部分はあります。それこそZETAのレコメンドエンジンは、一度サイトに来た顧客には適切な商品をレコメンドしてくれますよね。
山崎:ご紹介いただきありがとうございます。
川添さん:一方で、コンテンツの文脈づくりはとても難しくなっていると思います。企業としてコンテンツに期待できることが多くなったがゆえに、皆の思惑が複雑になっています。SEO対策なのかブランド理解なのか、CRMのネタづくりなのか、と目的がばらけてしまっている状態を意外と見かけます。
山崎:「ばらけてしまっている」の具体的な例はありますか?
川添さん:例えば「ブランドストーリーを伝えたい」と仰る事業者さんは多いです。でも、顧客が「そこまで知りたい訳ではない」と考えていること(※)もあります。
「なぜブランドストーリーを伝えたいのか?」、事業者側にもそれなりの理由があるのですが、顧客視点においては「ストーリーの押し付けになっていないか?」を考えないといけない。ビジネス視点では「それを顧客に伝えて売り上げに繫がりますか?」「どの顧客に刺さるメッセージですか?」「潜在顧客に気づきを提供できますか?」というのも必要です。
https://wevnal.co.jp/news/409/
川添 隆(ゾエ)欲しいと売るをつなげる人
山崎:なるほど。
先ほどの本屋の例で言うと、まずは棚作りをしっかりやる。「この棚を作った店員はこの店員」と紹介するのはそのあとで考えるべきみたいなイメージですね。
川添さん:近いかもしれません。
大多数のお客様は商品をめがけて買いに来ているでしょう。棚で惹きつけることができていたなら、「この棚を作った店員はこんな人」というコンテンツは顧客に刺さる、プラスになりますよね。
EC運営のテクニカルな話をすれば、ある程度は運用が軌道に乗っているECサイトなら、いまは安定的に収益が見込めるCRMを念頭とする。キャンペーン情報だけでなく、エントリー商品を買ったお客様にブランドの本質がわかる商品コンテンツを用意したり、既存の顧客がちょっと興味を持ったときに深く知ることができるコンテンツを用意したりを提案します。それは新規顧客のアテンション、アクションにも繫がりますよね……といったアドバイスをしています。
山崎:もちろん、事業者側も「売り上げを伸ばしたい」「顧客が欲しいかもしれない」と考えて相談をして下さっていますが、「いまはやるべきはそこではないです」とお話しすることは私もよくありますね。
川添さん:みなさんとても良いブランドストーリー、背景をお持ちなのです。だけど企業の中の人が気づいていないことも多い。だからこそ、足場を固めながら手ごたえをつかむ必要がありますし、ECサイトや商品にとってプラスになるカタチで世に出して相乗効果を狙いましょうと伝えています。
・・・後編に続きます。