AIというレッドオーシャン
冷めやらぬ AIブーム
まだまだ AIは大ブーム のようです。
このコラムでも何度も触れていますし、セミナーでの登壇や外部メディアへの寄稿でも取り上げているとおり、私はAIはかなりブームが過熱しすぎていると思っています。
ソーシャルゲームブームもかなりのものでしたが、ソーシャルゲームはそれで収益化できるという点が大きく違いました。
そういえばSONYの決算が良かったそうですが、これもソーシャルゲームの貢献が大きかったという報道を見ました。
ソーシャルゲームの会社になっていくんでしょうか。
それはさておき、AIの場合にはAI自体で収益化という出口がありません。
AIを活用して何かのビジネスでコスト削減か売上伸長をして収益化につながります。
AIが直接利益を産むわけではなくAIで誰かがお金を稼いでその分け前をもらうということです。
もちろんビジネスの大半はそうした形なのでそれはそれで良いのですが、それでここまで過熱していいのか、と率直に感じます。
しかも、AIを活用して大幅に売上が伸長するようなビジネスは、まだそんなに多くありません。
AIブーム の実態
基本的に売上が増えるということは、市場がでかくなるか、市場におけるシェアがでかくなるかのどちらかです。
消費者の可処分所得の総額はそうそう変わらないでしょうから、結局売上が増えるとき、その市場がどこかの市場を奪っているか、もしくは同じ規模の市場において他社から奪っているかのどちらかです。
ソーシャルゲームの場合は、それがパチンコ業界だと言われていました。実際のところは私はわかりませんが。
AIの場合、AIを使ってなにかのビジネスがすごく儲かるとするとそれは何か、そしてその市場はどこからもってくるのか、全然そのあたりが見えない状態で、とりあえず突っ込んでいっているように見えます。
しかも、ここが重要ですが、AIと騒いでいても AIブーム 以前と大きく変わったのは実質まだディープラーニング+アルファくらいです。
AIブーム の実態のほとんどは、「 AIブーム 前からある機械学習」なのです。
当社は機械学習には11年前から取り組んでいますし、そこでの成果や収益もあるため、今更ブームにのってAIと喧伝する必要は全く感じていません。
雇用への影響とは
また一方で、売上を伸長する方向ではなく、コストを削減する方向で利益を上げるという方向ももちろんあるのですが、それはそれで別に悪いことではないですが、だいたいコストの削減というのは人件費のカットのことだと思います。
AIで雇用が奪われる、というのは前から言われてはいますが、AIが人間のように考えるようになって雇用が奪われるということは起こらない(遠い将来でも起こらない)と私は思いますが、とはいえ単純作業を機械に任せるようになって奪われる雇用はあるでしょう。
工場のオートメーションと同じ流れです。
すでにメガバンクが続々と、今後の人員削減を打ち出していますが、まさにこのあたりはそうした流れの一端ではないでしょうか。
雇用削減というのは、削減する企業の株主からすれば歓迎でしょうし、また一方で削減される側の労働者からすれば迷惑でしょう。
なかなか一概に良いとも悪いとも言えないのが雇用調整の難しいところです。
でも、 AIブーム の過熱は「これで人員がたくさんカットできて利益が増えるから大チャンスだ!!」というノリでもないですよね。
やっぱり、出口戦略なく、良く言えば先行投資、悪く言えば闇雲な取り組みに見えるというのが正直なところです。
また皮肉なのが、AIと騒ぐ会社がこぞって雇用を増やしているのがデータアナリストのような職種です。
AIが成果が上がれば上がるほど削減される雇用の筆頭がデータアナリストだと思いますが。
今後重要なこと
実際にUSの雇用統計の予想で、将来もっとも削減される職種の1位がデータアナリスト、という資料もあります。
データアナリストをたくさん確保して、AIを成長させて、データアナリストをたくさん解雇するとしたら、こんな皮肉な話もないと思います。
ぶっちゃけAIは、狭い海にペンギンがファーストだかセカンドだかサードだか知りませんが、大量に飛び込みすぎてもう身動きできないような状況にあるように見えます。
AIは手段であって目的ではありません。
何をやって売上を伸長するのか、コストを削減するのか、市場を増やすのか、シェアを増やすのか、そしてそれについて有効であればAIを使えばよいだけの話です。
「そんな短期的な視野だけではなく、長期的に基礎研究を行うのが重要だ」ということを言う人もいるでしょう。
まあそれはそうだと思います。
ただ、今の過熱っぷりは、基礎研究という規模では説明できないでしょう。
それに、やってる内容のほとんどは、基礎研究ではなくて良くて応用、せいぜい実装のようですし。
私はむしろ、これから重要なのは、まさにAIで扱えない分野の人員確保と育成ではないかと思います。
当社はコマースを事業領域としているのでコマースで考えると、消費者に対する接客などは、まさに各社がAIで!AIで!と騒いでいる部分ですが、むしろ人間でないと出来ないレベルの接客をアウトソースできるようなサービスこそ必要になってくるのではないかと思います。
AIと人間の関係
しかもコマースはどんどんECにシフトしていく流れですが、ECになればなるほど、人間による接客の効率化が進みます。
例えば店舗ではあるお客さんの相手をしていてそのお客さんが悩んでいる間、他の人の接客をするわけにはいかないですが、ECであればそれは十分可能です。
インバウンドのコールセンターに詳しい方ならわかると思いますが、あの業務効率の高さはものすごいものがあります。
電話がかかってくると相手の情報が画面に表示され、最適なスクリプティング(接客のシナリオ)がオペレーターに提供されます。
またスーパーバイザーと呼ばれるリーダーが各会話をモニタリングして、常時細かくアドバイスを出し、必要に応じてエスカレーションを引き受けます。
EC接客とインバウンドコールセンターは、かなり通じるものがあるのではないかと思います。
満足度の高い接客をAIと人間どちらができるかといえば、ジャンルやシチュエーションにも左右されますが、要求レベルが上がれば上がるほど人間が優位になっていくでしょう。
ただ、レベルが高くなければAIは有用ですし、またジャンルによってはAIが人間では発見できないオススメを見つけてこれるような場合があるのも事実です。
つまりAIと人間は完全に補完関係にあるということです。
AIはペンギンだらけのレッドオーシャンですから、きっと便利で優秀なサービスが安く提供されることでしょう。
とすれば、そのAIを補完する、もしくはAIに補完される人間によるサービス、リソースの育成や確保こそが、ブルーオーシャンなんではないでしょうか。
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【著者情報】
ZETA株式会社
代表取締役社長 山崎 徳之
【連載紹介】
[gihyo.jp]エンジニアと経営のクロスオーバー
[Biz/Zine]テクノロジービジネスの幻想とリアル
[ECZine]人工知能×ECことはじめ
[ECのミカタ]ECの役割
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