オムニチャネル の本質
2014年の オムニチャネル ブーム
意外なことにこのコラムでは オムニチャネル そのものについて触れたことがありませんでした。
外部メディアへの寄稿や講演などでは オムニチャネル を取り上げたことは何度もあったのですが、今回は オムニチャネル について触れてみます。
オムニチャネル< といえば2014年のマーケティング関連の最大のバズワードと言っても過言ではない過熱ぶりでしたが、最近はさすがに沈静化してきたようです。 過熱しているとその本質が見えなくなってくるのと、だいたいこういった新しいキーワードが実際に活用されるのは沈静化してから後なので、それは良いことだと思います。 実際問題、 オムニチャネル ブーム?のころに具体的に発表されていた施策といえばそのほとんどが「ECで購入したものが店舗で受け取りできる」という配送の利便性に関するものでした。
まさか、配達の受け取りが便利になるくらいのことが2014年最大のキーワードになるわけはありませんので、これは過渡期によくあるキーワード先行で実体が追いつかない現象の一つだと思います。
ECチャネルの躍進
さて オムニチャネル とはなんだろうと改めて考えてみると、これは実はそんなに前向きなキーワードではありません。
いろいろな定義があるとは思いますが、おおむねそれらはオンラインつまりECとオフラインすなわち店舗のチャネル(場合によってはあと通販も)の統合、というものだと思います。
つまり オムニチャネル というのは、「店舗ありき」のキーワードです。
オムニとは全てという意味なので、店舗のない専業ECの場合でも当てはまらないことは無いのですが、基本は「店舗に加えてECをチャネルとして統合」というのが実際のところです。
EC化率はせいぜい10%ですし、何百年と歴史のある店舗と、たかだかここ10年程度のECを並べてみた時に、店舗(や通販)に新しくECというチャネル(タッチポイント)が増えたと考えるのは自然なことだと思います。
今のM1・F1層はだいたいがデジタルネイティブというか社会に出た時にはすでに常時接続のインターネットもあればネット接続できる携帯もあったので、そこまで新しいというイメージではないと思いますが、歴史を振り返ってみればECは新参者です。
問題はその新参者のECがものすごい勢いで成長をしているということです。
ECが成長したからといって消費者の総消費が増えるわけではありません。
消費の上限は基本的に可処分所得以下です。
トータルが変わらないのにECが成長しているということは、とりもなおさず店舗の売上が減少しているということに他なりません。
オムニチャネル とは
Amazonの出現で街の本屋がなくなっていく、というのはそのわかりやすい例の一つです。
つまりここでの構図は、「店舗+EC」というプレイヤーと「EC専業」との闘いということになります。
USでいえばWalmart vs Amazonです。
オムニチャネル が提唱するところでいえば、「EC専業プレイヤーに対して店舗+ECプレイヤーは店舗という巨大なタッチポイントがあるために、よりよい購買体験が実現できるはず」というものです。
そうすることでEC専業プレイヤーにシェアを奪われないようにする、すなわち防衛策というのが オムニチャネル の本質なのです。
もちろんその提唱するところは間違っていません。
何しろ店舗は総消費の大部分を担っているのですから、活用することができればかなりのアドバンテージとなるはずですし、それが オムニチャネル の狙いといえるでしょう。
ただここで忘れてはいけない重要なポイントがあります。
それは「ECがEC専業プレイヤーと同程度の顧客体験を提供できているなら」というものです。
ECが同程度であれば、そこに店舗というチャネルを統合することでアドバンテージを生み出すことは可能ですが、EC自体に大きな差があればECが成長する部分の売上は結局EC専業プレイヤーに奪われていってしまうでしょう。
取り組むべき課題
成長するEC市場において消費者は、ECとしては劣っているけど店舗というタッチポイントも活かしてくれるからこっちで買おう、とは思いません。
あくまで「ECとしては甲乙つけがたい上に店舗での行動も統合してくれるなら」こっちで買おう、と思うのです。
2014年における資料ですが、WalmartのEC売上は120億ドルに対してAmazonは890億ドルだそうです。
WalmartがAmazonに負けないECを提供して、かつ店舗という大きなチャネルを統合することでさらに良い顧客体験を実現できたとすれば、この890億ドルのうちの何割かはWalmartの売上になっていたのではないでしょうか。
つまり オムニチャネル に真剣に取り組むなら、まずはECの底上げというか品質向上が急務の課題なのです。
そこをおろそかにしたままで、店舗というタッチポイントを活用しようと思っても成果には結びつきません。
消費者の、とくにM1・F1層というデジタルやネットに躊躇のないユーザー層は、ECが提供するUXに敏感です。
あらためて オムニチャネル の本質についてまとめると、「EC専業プレイヤーに負けないECを提供した上で」「店舗とECというチャネルを統合することで良質な顧客体験を実現すること」なのです。
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【著者情報】
株式会社ゼロスタート
代表取締役社長 山崎 徳之
【連載紹介】
[Biz/Zine]テクノロジービジネスの幻想とリアル
[ECZine]人工知能×ECことはじめ
[ECのミカタ]ECの役割
[ネットショップ担当者フォーラム]検索とレコメンドで実現するEC時代の接客術
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