カスタマーエクスペリエンスと 制御モデル
CXと 制御モデル の関係
引き続きカスタマーエクスペリエンス(CX)についてです。
その前に 制御モデル ですが、 制御モデル というのはあまり馴染みのないワードだと思います。
モデルはいわゆるMVCのモデルと同じ、つまりロジックのことです。
一般的には機械制御などで使われることが多いですが、制御される対象を人間としている、というだけです。
わかりやすいのは信号です。
赤にすれば人は停まる、青にすれば進む、という人間の運転や歩行を制御するロジックです。
マーケティングも基本的にはカスタマーをどう制御するか、というのが根本的なテーマです。
言ってみれば広告もUIもUXも、レコメンドもWeb接客もチャットボットも、マーケティングオートメーションもオムニチャネルも、全部購買を目的とした 制御モデル です。
そして、それらを網羅する概念がカスタマーエクスペリエンスだと言えます。
制御モデル がどうカスタマーに作用してどのようなエクスペリエンス、すなわち経験や体験をもたらしているか、ということです。
ちなみにその制御自体を主目的にしているのがUIとUXであるといえます。
CXというのはカスタマーの体験全般に関する概念、UXはその中で個々のシーンにおける体験、UIはそのためのインターフェースです。
つまりUIを考えるにはUXを、UXを考えるにはCXを意識する必要があるということです。
スマートフォンの発明がもたらしたもの
さて、そもそもなぜCXが重要なのか、もしくは重要になったのでしょうか?
この大きな理由の一つがスマートフォンです。
私は情報流通に関しては3つの革命があったと思っています。
一つはコンピューターの発明、つづいてネットワークの発明、そしてスマートフォンの発明です。
計算機(コンピューター)というデジタル処理が登場し、それがネットワークによって繋がり、そしてスマートフォンとしてポータブルになった、これらがそろったことがCXという概念の重要性の原因ではないでしょうか。
例えば80年台のようなネットワークに繋がらない(パソコン通信はありましたが)コンピューター時代には、CXという概念は正直さほど重要ではなかったでしょう。
マーケティングのチャネルは、TV、雑誌、新聞、店舗などでした。
そして、コンピューターがオープンネットワーク(事実上インターネット)に接続された90年台以降で考えてみると、ネットワークを通じて企業が個人に情報を配信できるようになりました。
つまりデジタルというマーケティングチャネルの登場です。
ただ、このデジタルというチャネル自体は、ただマーケティングの経路が一つ増えたというだけです。
もちろんTVや新聞よりも粒度の細かいマーケティングが出来るようになったという違いはありますが、言ってみれば根本的な違いというより度合いが違ったというのが正直なところです。
「通信の双方向」と「情報の双方向」の違い
インターネットが登場した際に、「双方向通信」という部分が注目されました。
もちろんインターネットはインフラとしては双方向通信です。
ただ、ここで気をつけないといけないのは、プロトコルとして双方向でも情報として双方向とは限らないということです。
たとえばEメールは配信部分ではSMTPというプロトコルを利用しています。
SMTPはプロトコルとして双方向です。
とあるサーバーから違うサーバーにメールを配送する際に、
→通信開始
←了解
→実データ
←了解
という、双方向からのデータが飛び交います。
そして実際に配信されたメールに対して、ユーザーは返信をすることもあるでしょう。
つまりEメールはプロトコルとして双方向なだけではなく、情報としても双方向ということです。
一方でWebについて考えてみます。
WebはHTTPやHTTPSというプロトコルを利用しています。
これらが登場というか一般のユーザーにも開放されたのは日本だと1994年位のことでした。
一般といっても当時はまだインターネット接続できる個人用のPCなどはあまりなかったので、UNIX端末上でMosaicというブラウザをコンパイルして閲覧、というレベルでしたが。
その後Windows3.1に他社製ではありますがTCP/IPが搭載できるようになり、その後TCP/IPを最初から実装しているWindows95が登場し、ネットスケープブラウザの登場などにより一気にWebというものが一般化して、インターネットのトラフィックの殆どを占めるようになりました。
Webの採用しているHTTPやHTTPSはSMTP同様、通信としては双方向です。
ただ当時のWebというものは情報としては双方向ではなく片方向でした。
厳密にはユーザーもGETやPOSTという形で取得したいURLのリクエスト自体は送信しますが、これを情報が双方向であるとはいいません。
Webというものが双方向になったのは、ブログのコメントあたりが最初ではないでしょうか。
そしてその後のSNSの登場によって、ユーザーもWebにおいて情報を送信する側に立てるようになったのです。
制御モデル の拡大とカスタマーエクスペリエンス
つまりWebというインターネットの殆どを占めるアプリケーション上において、通信だけではなく情報も真の意味での双方向になりえるようになりました。
この大きな転換点を説明しているのがいわゆるWeb2.0だったということです。
Web2.0自体は2005年に提唱された概念ですが、その2年後の2007年にiPhoneが登場したことによって、インターネットにおける情報の双方向性は一気に高まりました。
これがスマートフォンが登場していなかったら、ここまでの情報の双方向性というのは、実現していなかったと思います。
まずスマートフォンによってあらゆる瞬間あらゆる場所においてインターネットに接続することができるようになったことと、またPCに比べてはるかに高い人口普及率を持っているという点が大きな違いです。
こうしてコンピューター、ネットワーク(インターネット)、スマートフォンという3つが揃ったことにより、様々なジャンルで多大な変化が起こったわけですが、その中の一つとして「マーケティングにおける 制御モデル の到達が時間と空間の両方の意味で拡がった」というものがあり、そしてそれがカスタマーエクスペリエンスという概念につながっているということです。
スマートフォンが普及したことによって、企業はユーザーに広告をより広く細かく届けることが出来るようになり、またユーザーの反応を拾えるようになりました。
ECサイトにおいても企業は様々な形で購買へと導くアクションを起こせるようになり、そしてこれらにおいてもユーザーの反応を拾えるようになりました。
またユーザー同士も購買における様々な情報を交換できるようにもなりましたし、そもそもユーザー同士でコマース(商取引)を行いやすくもなりました。
CXにおけるエクスペリエンスとは体験ですが、体験というのはフィードバックが取れることで、つまり双方向になることで一気に重要性が高まります。
ユーザーへのアクション(広告、検索結果、レコメンド、Web接客、クーポン表示など)に対してユーザーがどうリアクションしたかがわかる、つまりそれこそがマーケティングの 制御モデル ということです。
まとめると、コンピューター、ネットワーク、スマートフォンという一連の登場によって情報そのものがデジタルで双方向でポータブルになり、マーケティングの 制御モデル の可能性が一気に拡がったことで、カスタマーエクスペリエンスという概念が重要になったと、そう思います。
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【著者情報】
株式会社ゼロスタート
代表取締役社長 山崎 徳之
【連載紹介】
[gihyo.jp]人工知能で明日のビジネスは変わるのか?
[Biz/Zine]テクノロジービジネスの幻想とリアル
[ECZine]人工知能×ECことはじめ
[ECのミカタ]ECの役割
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