あらためて考えるマーケティングの入力と出力
インターネットの特徴と副次的効果
先日、とあるクローズドなワークショップで講演をする機会を頂きました。
誰でも知っている企業の、 デジタル マーケティングの展開の施策において、人工知能や機械学習について話をしてほしいという内容でした。
オープンなセミナー、たとえばMarkezineDayや宣伝会議などで登壇する機会は年に10回ほどありますが、こうしたクローズドで少人数の、かつ会議の目的が鮮明な場での講演というのはあまり経験がなく、私にとっても貴重なものでした。
講演の内容としては、かなり「そもそもの部分」から掘り下げてみたのですが、差し障りのない範囲で紹介してみます。
まず「インターネットの特徴」についてです。かなり「そもそも」ですね。
インターネットの最大の特徴は、距離をなくすことができるということです。
ECに置き換えてみれば、店舗に行かなくても買い物ができる、ということになります。
講演後のQ&Aで、ネットは時間と空間を超えるのでは、という質問があったのですが、インターネットは時間は超えられません。
ただ空間を超えることで、時間の単位を変えることができるというだけです。
店舗に買い物に行くのであれば5分や10分という時間の単位では実行できませんが、ECで買い物をするのであれば5分や10分でも可能です。
つまり、空間を超えるという最大の特徴の副次的効果として、時間「も」有効活用できるというのが正確なところです。
もう一つの特徴として、インターネットは出力が デジタル であるということです。
デジタル とインターネットは大変親和性は高いですが、正確にいえば デジタル の一部がインターネットです。
このため、インターネットの出力というものは基本的に デジタル であり、その大部分がディスプレイです。PCやスマートフォンの画面ということです。
マーケティングとは制御モデルを生み出すこと
そもそもマーケティングについて考えるとき、そこには「入力」「処理」「出力」という3つがありますが、その出力はいわゆる制御モデルです。
制御モデルというのは、人の行動に影響を与える仕組みのことです。
一番わかり易いのが信号です。
信号が赤になれば(基本的に)人は停まる、これが制御モデルです。
マーケティングはつきつめると、制御モデルをどうするの、という話になります。
結局は消費者の意識を変化させることが目的で、その変化を起こすのが制御モデルだからです。
さて、インターネットの最大の特徴は空間(距離)を超えること、その副次的効果として時間の活用の単位が変わること、また別の特徴として制御モデルがディスプレイであること、というのが デジタル マーケティングに関する基本的な要素となります。
現在展開されている デジタル マーケティングは、おおむねこれらの特徴を活用しているのですが、ただ「これらの特徴を意識して」活用されているケースは、それほど多くはありません。
だいたいがもっとアプリケーションよりの、「instagramを使って」とか「youtubeが」とかだと思います。
UIとUXは重要なのでアプリケーションを意識することは大事ですが、その元になっている要素も合わせて意識すると、より効果的な取り組みができると思います。
デジタル と非 デジタル は補完し合う関係にある
では具体的にどうしたら良いのでしょうか。
空間を超える、時間の活用単位が変わる、制御モデルがディスプレイ、これらはすべてマーケティングの粒度を小さくするという特徴を持っています。
例えば駅前の大きな看板について考えてみると、設置施工には時間がかかりますし、誰が見ても見えるものは同じです。
どうでもいいですが今渋谷の駅前にはお茶漬けの大きな看板がありますね。
あの広告の狙いはなんだろう?というのがちょっと興味深いです。
それはさておき、これと比較してデジタルの場合、広告は瞬時に配信できますしユーザーごとに異なる内容を届けられます。
だから全てにおいて デジタル が良いということではなく、非 デジタル の広告が相対的に重厚長大なのに比べて、 デジタル は軽くて粒度の細かいマーケティングをカバーできるようになった、つまり補完関係にあるということです。
わかりやすい例で言えば、たとえばECでユーザーの行動に応じて画面の内容を変化させるのはもはや当たり前のことですが、これはリアルの店舗ではハードルが高くなります。
Aという商品をカートに入れたからBという商品をオススメしようというのは、店舗においては店員による接客という制御モデルが必要です。
またトップ画面というのはある意味リアルの店舗における陳列だとみなせますが、陳列を他人事にパーソナライズすることは、これはもはや不可能であるといえます。
店舗に足を運ぶ必要もなく、通勤時やお昼休憩でもアクセスできて、画面という制御モデルが個人ごとにパーソナライズできるというインターネットというか デジタル マーケティングの特徴を理解した上でどう活用するかが重要です。
逆に デジタル では、店舗で実際に商品を触るというリアリティには太刀打ち出来ないところもあるので、どちらが上とかではなくてどう両方を組み合わせて活用するかが重要ということです。
そしてそれがオムニチャネルの本質でもあります。
ECの配送が店舗で受け取れる、というのは利便性は高いですがマーケティングではありません。
インターネットのサービス設計で見落としがちなこと
またもう一つ見落としがちな点として、同期非同期という話をしました。
インターネットのコミュニケーションの良い点は、非同期性が高いということです。
つまり自分と相手が同時に存在しなくても良いということです。
店舗の場合、店員と消費者は同じ時間を共有する必要があります。
一方でECの場合、マーチャントの運営者と消費者は同じ時間を共有する必要はありません。
メールなども同様です。
メールの一番良い点は、発信者と受信者が非同期であるということです。
まあそれが、発信者と受信者のプライオリティが揃わないという欠点にもつながるわけですが。
ちなみにチャットやメッセンジャーは同期コミュニケーションじゃないかと思われがちですが、あれは非常に単位が小さいため同期に見える非同期コミュニケーションです。
「○○?」と聞いて回答が1時間後というのもありえますから。
ただすぐに返事が来ることがわりかし多いというだけです。
非同期性が デジタル の特徴なので、 デジタル というかインターネット上で同期コミュニケーションを必要とするUIやUXを作ってしまうと、その良さを損じることがよくあるのですが、意外とこの同期か非同期化という点は見落とされがちです。
ネットの帯域が広がって動画などのリッチコミュニケーションができるようになったことで、逆に同期コミュニケーションが増えてきている傾向にありますが、この点を踏まえないとサービス設計で失敗することもありえます。
成功しやすい デジタル コンテンツとは
ソーシャルゲームが普及したときに消費者の可処分時間という概念がよく取り上げられました。
テレビを見なくなったり音楽を聞かなくなったのは、お金の問題ではなくて可処分時間がゲームやネットに取られたからだ、というものです。
それはたしかにその通りなのですが、もう一つ、連続可処分時間かどうかというのも重要なポイント(でかつ見落とされがちなポイント)です。
TVドラマだと1時間、映画だと2時間、音楽だと5分くらいがだいたい「連続して確保しないといけない可処分時間」です。
ところがネットやソーシャルゲームの場合、それが1分単位などでも良かったりします。
つまり可処分時間としてネットに奪われるだけでなく、「旧来のコンテンツでは活用できなかった短い時間」も奪われるということです。
それは逆に言えば、 デジタル コンテンツはこうした小さな時間を狙ったサービスが成功しやすいということでもあります。
インターネットやデジタルにおけるマーケティングにおいては、今回挙げたような「空間を超える」「時間の活用単位が変わる(非同期性が重要になる)」「制御モデルがダイナミック」という特徴を踏まえると、よいアプリケーションが作れるのではないかと思います。
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【著者情報】
株式会社ゼロスタート
代表取締役社長 山崎 徳之
【連載紹介】
[gihyo.jp]人工知能で明日のビジネスは変わるのか?
[Biz/Zine]テクノロジービジネスの幻想とリアル
[ECZine]人工知能×ECことはじめ
[ECのミカタ]ECの役割
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